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題詠blog2008自選作品集二四首

今年の題詠作品はあまり推敲できず、よい歌が作れなかったような気がしていましたが、いざ選んでみると、それでも二〇首ほど採ることができました。以下が今年の自選歌です。

塩田に結晶しつつある詩(うた)をこころの底を浚(さら)ひつつ聴く

ドラマーの叩くタムタム美(は)しき汗の民を想ひて薬湯飲めり

窓外の守宮(やもり)の腹のしづかなる永劫の夜 書(ふみ)を読みさす

アジアの岸辺を航(ゆ)く船のあり海霧(ガス)深く溶け入る時に愁ひ凪ぎたる

頭より赤錆びてゆく釘ひとつ自転車も馬も夢に濡れゐて

豆腐屋の喇叭に豆腐を買ひゐたり冬の街場は影の音(ね)響く

くらき低地の運河ゆく舟遅遅として雨に撃たるる爛れし族(うから)

鯖の腹割けば内部(うち)より過去の舟のなまぐさき帆に放てる炎

存在の秋(とき)は過ぎにし曇天を突きさす檜(ひのき)寒く聳ゆる

納豆かけごはんの粘る玉響(たまゆら)の懈(たゆ)きを思(も)へば降る草の雨

鈴掛(すずかけ)の樹肌をなでて春雷の遠のく午後をゆつくり濡るる

連凧さばく手さき優雅なわかき父をねたみしわれに天の水渇く

母照らせし熊座のあはき星かげの微塵のそらをただよへる笛

霜月の虎落笛(もがりぶえ)鳴る北国に夢の氷塊切り出してをり

根太葱買つて曠野を越え来(きた)る冬の根室にねぎま鍋炊(た)く

鬼籍より届くメールの深更に青黴乾酪(チーズ)を切り分けゐたり

風騒ぐ瀬瀬にひそめる夜の鮎緑の暈(かさ)をまとふ月かも

虹顕(た)ちて友の雅量に謝すゆふべ古酒酌みかはせば篁さやぐ

横死遂げたり甘美なる雨顔打ちて無花果(いちじゆく)のごとし若きくちびる

朝朝のうがひの空の秋つばめ銀の盥に風切(かざきり)映し

一皿の桜桃恵まれたるゆふべ夏の少女は白馬(あを)に乗りて来(く)

別れの刻 瑯かん山河に鏤(ちりば)めて冬の摩周湖そこしれず澄む

むかしとんぼ複眼冱えて全世界鑢(やすり)のごとしけふ五月尽

地下室の手帖の皮の罅現(あ)れて従軍の伯父の日録凛(さむ)き

夏実麦太朗さんの七首選

今日は、というか昨日はいわゆる明治節、すなわち文化の日で祝日だったわけですが、ぼくは午後から仕事、出勤途次のサンプラザの前で、缶珈琲を飲みながら、今日は休みたいという思いにさいなまれつつ、、気力を振り絞ってJRに乗って仕事に行ってまいりました。もっとも仕事中に極度の睡眠不足により爆睡していましたが、なんとか午後六時まで頑張りました。
ところで、話は変わるのですが、題詠blogに参加して今年で三年目、毎年、一〇月の締め切りぎりぎりまで歌を作っていることが多いのですが、今年も例年どおりの展開で進み、先月だけで六〇首以上作成いたしました。小学生の頃は夏休みの宿題を最終日まで残し、泣きながらやっていた記憶がありますが、今でもそういうところは変わっていないようです。さて題詠blogには鑑賞サイトを作って、参加者の短歌を選評したりするサイトもあるわけですが、このたび、夏実麦太朗さんからも七首選をたまわり、トラックバックを頂戴したので、コメントにお礼の返事を書かせてもらったところ、文字数オーバーで三〇〇字くらい削ってくださいなどというポップアップが出て、せっかく書いた各首へのコメントを削らざるを得ず、コメントの文章自体は、保存してあったので、少し文章を膨らませて、当blogに転載することにしました。麦太朗さんの選ばれた七首を挙げつつ、コメントを掲載します。

004:塩
塩田に結晶しつつある詩(うた)をこころの底を浚(さら)ひつつ聴く

この歌は自分で言うのもなんですが、結構気に入っています。「こころの底を浚ひつつ」というところが要(かなめ)でしょう。ところで、いまでも塩田なんてあるんでしょうかね?

010:蝶
春の夜の恋人たちは酒亭(バー)に消え銀の蝶番しづかに軋む

これはちょっと甘めの一首。まとまっているとは思いますが。

022:低
くらき低地の運河ゆく舟遅遅として雨に撃たるる爛れし族(うから)

この歌は学生時代に読んだ小説の雰囲気を短歌で表現しようと試みた歌です。その小説とはベルギーのフランス語作家ジョルジュ・シムノンの初期の傑作『運河の家』で、ベルギーの低地を舞台にした悲劇的な名作です。日本ではメグレ警部シリーズで御馴染みのシムノンですが、普通の小説も多く発表しています。自分では低地地方のじめじめした感じが出せたかと思います。

035:過去
鯖の腹割けば内部(うち)より過去の舟のなまぐさき帆に放てる炎

この歌は魚を何にしようかと迷ったのですが、結局「なまぐさき」だから「鯖」かなと思って決めました。「割けば」とも頭韻を踏んでいますしね。

☆041:存在
存在の秋(とき)は過ぎにし曇天を突きさす檜(ひのき)寒く聳ゆる

この歌は前登志夫さんのエッセイ集『存在の秋』をそのまま歌のなかに持ち込んでみました(「秋」を「とき」と読み替えてありますが)。悪くないと思います。もっともこの一首の要は下句にあります。星印は麦太朗さんが一番気に入った歌であるという由です。

051:熊
母照らせし熊座のあはき星かげの微塵のそらをただよへる笛

この歌はイタリアの映画監督ルキノ・ヴィスコンティの『熊座の淡き星影』を一部かなに開いて、歌の中にそのまんま持ち込んだ一首です。要はもちろん下句にあります。特に「笛」ですね。

089:減
ブレーキかければ減速の汽車軋みたる通路の椿首断たれをり

この歌はちょっと困った一首です。完全に推敲不足で、ぼくとしては採れません。一〇月に六〇首以上粗製濫造した報いで、あまり推敲できませんでした。

ぼくの短歌は難解だということを言うひともいますが、一首の喚起するイメージや音律を楽しんでもらえればいいので、難しいということはありません。比喩とかは考えなくていいです。二〇世紀以降の詩は一般に文字通りにとって鑑賞するにしくはありません。それでは夜も更けて参りましたので、この辺で。

完走報告(寒竹茄子夫)

今年はもう完走は無理かと諦めかけていましたが、一念発起、詩神に憑かれたがごとく作りまくり、なんとか完走しました。主催の五十嵐さんに感謝。ほかの投稿者のかたがたからも刺激を受けました。ありがとうございました。

100:おやすみ(寒竹茄子夫)

廃船の赤錆撫づれば雲雀とぶ雲も莫(な)かれと 友よおやすみ

099:勇(寒竹茄子夫)

砂金くづるる生の涯視(み)し歌人(うたびと)の吉井勇を筆太に祝す

098:地下(寒竹茄子夫)

地下室の手帖の皮の罅現(あ)れて従軍の伯父の日録凛(さむ)き

097:訴(寒竹茄子夫)

訴ふるたどきも知らず朝焼けの渚を歩む若僧(にやくそう)の唇(くち)

096:複(寒竹茄子夫)

むかしとんぼ複眼冱えて全世界鑢(やすり)のごとしけふ五月尽

095:しっぽ(寒竹茄子夫)

しつぽ立て黒猫あゆむ露地の霜白き曙光にきらめきわたる

094:沈黙(寒竹茄子夫)

沈黙の霧に閉ざされ乳白の火山湖めぐる蝉の屍(し)冷えて

093:周(寒竹茄子夫)

別れの刻 瑯かん山河に鏤(ちりば)めて冬の摩周湖そこしれず澄む
※「瑯かん」の「かん」が漢字で表示できず無念。偏は「王」旁は「干」。

092:生い立ち(寒竹茄子夫)

数行の生ひ立ち語り師父ゑらぐ木通(あけび)は熟れて果皮の紫

091:渇(寒竹茄子夫)

怪(け)しきゆふぐれ廃村おほひ影踏みの昔渇きに充ち甦れ

090:メダル(寒竹茄子夫)

萩の葉むらに青銅のメダル朽ちゐたり月のひかりにただ滅ぶれと

089:減(寒竹茄子夫)

ブレーキかければ減速の汽車軋みたる通路の椿首断たれをり

088:錯(寒竹茄子夫)

錯視する蛍みだれて東京の夜風の塵の明日へあゆめり

087:天使(寒竹茄子夫)

堕天使の襤褸(らんる)の風切(かざきり)水満ちて青年の背のしほさゐ聞ゆ

086:恵(寒竹茄子夫)

一皿の桜桃恵まれたるゆふべ夏の少女は白馬(あを)に乗りて来(く)

085:うがい(寒竹茄子夫)

朝朝のうがひの空の秋つばめ銀の盥に風切(かざきり)映し

084:球(寒竹茄子夫)

墜ちきたる球体の夢裂けたりなおのが子くらふサチュルヌスの辺(へ)に
プロフィール

TSURUTAYA

Author:TSURUTAYA
1973年生れ。都内在住。
鶴太屋 a.k.a. 寒竹茄子夫の短歌、その他のweblog。
影響を受けた歌人:斎藤茂吉、前川佐美雄、佐藤佐太郎、塚本邦雄
敬愛するひと:セルジュ・ゲンズブール、西脇順三郎、マックス・エルンスト、鈴木清順、フリオ・コルタサル
お便りは、minatsuna[at]gmail.comまで([at]は@に変換してください)。

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